日誌

第35回卒業証書授与式 校長式辞

                     式 辞

 まるで卒業生との別れを惜しむかのように雪が舞う日となりましたが、PTA会長・窪田紫晶様、後援会会長・柴田恵子様をはじめ、多くのご来賓のご臨席を賜り、ここに埼玉県立和光国際高等学校・第35回・卒業証書授与式が挙行できますことは、卒業生はもとより、教職員にとりましても、誠に大きな慶びであります。

 只今、卒業証書を授与された312名の卒業生のみなさん、ご卒業おめでとうございます。入学以来、3年間の努力が実を結び、めでたく卒業するみなさんに、心からお祝い申し上げます。

 みなさんが本校に入学した2021年はまさにコロナ禍の真っただ中でした。緊急事態宣言が何度も発令される中、先行きの見えない不安な日々を過ごしたことと思います。分散登校、黙食、調理実習の自粛など普通ではない学校生活が続きました。部活動の大会やコンクールが中止になったり、みづのき祭などの学校行事も、大きく制限された中での開催でした。さらに1年生の時の海外研修やシンガポール修学旅行も実施されず、楽しみにしていた行事が経験できずに悔しい思いをした人も多かったことでしょう。

 しかし昨年の5月に、コロナが感染症法上の「5類」に引き下げられたことにより、世の中は一気にポストコロナに向かっていきました。みなさんも最後の1年間は、失った青春を取り戻そうと、様々な場面で一生懸命に努力し、楽しむことができたのではないか思います。和国での生活を笑顔で楽しんでいるみなさんを見られるようになり、私は本当に嬉しく思うと同時に、この3年間はいったい何だったのか、人々は恐怖に怯えた時、自由や人権を奪う国家権力や、社会の同調圧力を受け入れてしまうものなのかと、つくづく考えさせられました。いずれにせよ、みなさんはこの3年間、目の前の状況にしっかりと向き合ってくれました。苦しい現実から逃げることなく、前向きに努力し、1歩1歩、前に進み乗り越えることで今日の日を迎えることができました。改めて心からお祝い申し上げます。

 卒業は人生にとって大きな節目であり、新しい世界へ羽ばたく出発点であります。この輝かしい門出に当たり、私から3つのことをお話したいと思います。

 1つ目は「意思決定のプロセスに参加する」ということです。みなさんが本校に入学をしてからの3年間、世界を見渡してみると対立と分断はますます悪化していると言わざるを得ません。ロシアによるウクライナ侵攻は依然終わりが見えません。中東ではパレスチナ問題が最悪の形で再燃しています。そして11月のアメリカ大統領選挙の結果次第では、すでに壊れかけている世界秩序がさらに崩壊していく。自由・人権・法の支配という、私たち、民主主義の国が享受してきた価値観、世界観が大きく後退し、国民が力と圧制によって支配される権威主義国家が台頭し、違法に領土を拡大する時代が来るかもしれません。

 では民主主義が脅かされる時、つまり政治や社会がおかしな方向に進もうとしている時、私たちはどうすればいいのか。それこそが「意思決定のプロセスに参加する」ことです。自らの意志を社会に示し、物事を決めるプロセスに参加することです。自分の意見を言葉にし、間違っていることには間違っているとはっきりと伝える。そして正しいと信じることを訴えていく。そうすることで意思決定のプロセスに参加し、民主的な社会を創り上げていく当事者になることです。それは皆さん1人ひとりの義務であり責任なのです。選挙で1票を投じること、つまり選挙権を行使することは勿論ですが、そればかりではありません。平和的なデモに参加する、SNSで意見を発信する、会議で発言するなど、自分の意志を示す方法はいくらでもあります。本日、和国を巣立つみなさんには、是非、責任のある大人として民主的な社会の「守り手」になってほしいと切に願っています。

 2つ目は、「落としどころを見つける知恵も持つ」ということです。これからみなさんは、新しい世界に羽ばたいていきます。新しい環境に身を置き、多くの人々と出会うことになります。自分と全く違った考え方、価値観を持った人と出会うことでしょう。また異なった文化や習慣、言葉や宗教を持った人々とも出会うことでしょう。先ほど民主主義について触れましたが、世界には民主主義を知らない人々もいることを忘れてはいけません。違った価値観を持つ人と出会った時「この人は自分と違う」といって理解しようとすることを諦めたり、排除したりしないでください。理解しようと努力する姿勢を持ってください。しかし、もしどうしても「共感」できない時は、少なくとも「落としどころ」を見つける知恵を持ってください。今、中東のガザで起きている戦争は、2つの民族が己の歴史と物語だけを信じ、共感することを拒んでいるからこそ起きているのです。しかし、たとえ共感することが難しくても、落としどころを見つけることはできるはずです。何の罪もない一般市民、子どもたちの命を、これ以上失わないために、落としどころを見つけ戦いをやめることは、それぞれのリーダーに知恵と勇気があればできるはずです。是非、みなさんには、自分と違った価値観を持った人と出会い、共感しようと努力してもできない時は、落としどころを見つけ共に生きていってください。まさしくこれが本校の教育理念の一つである「共生力」「共に生きる力」なのです。この「共生力」はこれからの世界を平和にしていくだけでなく、みなさんの人生をも豊かにしていくのです。

 そして最後は「自分のことは自分で決める」ということです。コロナ禍や能登半島地震などの災害により「人間は、この地球の主人公ではなく世界をコントロールできるわけではない。」ということを私たちは痛感させられました。人生には不条理なことが沢山あり、世の中は、常に理性的でも予測可能でもないことを知りました。そして私たちは不安になると何かに頼ったり、信じられる何かを求めたりするようになります。そしてその結果、多くの人がインターネットやSNSで常に他人の動向や様々な言説を気にするようになり、時にはフェイクニュースや陰謀論に惑わされてしまうのです。スペインの哲学者オルテガが「大衆」と名付けた「主体性を失い、根無し草のように浮遊する集団」に組み込まれてしまう危険があるのです。だからこそ情報が溢れ認知戦が激しくなるこれからの時代、自分で自分のことを決める能力が求められます。みなさんには、自分の人生にとって、何が大切であるのかを、自分で決められる人になってほしいと思います。空疎な言葉や短絡的な思考に惑わされない、重厚な知性と人格を養ってください。科学、歴史、哲学、宗教など様々な分野から多くを学び、知的な胆力、粘り強い知力を養ってください。自分の人生の幸せの形を自分自身で描き、それに向かって力強く歩んで力強く歩んでいける人になってください。

 最後になりましたが、保護者、ご家族の皆様におかれましては、お子様のご卒業、誠におめでとうございます。この3年間で立派に成長されたお子様の晴れ姿を目にされ、喜びもひとしおのことと存じます。皆様には入学以来、本校の教育方針を御理解いただき、終始、温かい御支援と御協力を賜りましたことを心より感謝申し上げます。

 結びに本日、このように第35回卒業証書授与式を保護者の皆様と共に挙行できましたことに感謝すると共に、312名の卒業生のみなさんの、今後の限りないご活躍を心から祈念いたしまして式辞といたします。

 

令和6年3月8日

埼玉県立和光国際高等学校長

鈴 木 啓 修