第34回卒業証書授与式校長式辞
厳しかった寒さも和らぎ、春の息吹きが感じられるこの佳き日に、PTA会長 柴田恵子様、後援会会長 増田真由美様、PTA・後援会顧問 吉田功治様のご臨席を賜り、保護者の皆様をお迎えして、ここに埼玉県立和光国際高等学校、第34回卒業証書授与式が挙行できますことは、卒業生はもとより、教職員にとりましても、誠に大きな慶びであります。
只今、卒業証書を授与された305名の卒業生のみなさん、ご卒業おめでとうございます。入学以来、3年間の努力が実を結び、めでたく卒業するみなさんに、心からお祝い申し上げます。
みなさんにとって高校生活の3年間は、まさにコロナ禍の3年間でした。中学3年生の3月に突然始まった約3ヶ月にもおよぶ臨時休業。入学式が6月にずれ込み、和国での生活に、夢と期待を膨らませていたみなさんにとって、出鼻をくじかれた思いだったと思います。また、その後も何度も緊急事態宣言等が発令され、先行きの見えない不安な日々を過ごしたと思います。分散登校、黙食、グループ活動や調理実習の自粛など通常では考えられない学校生活が続きました。部活動の大会やコンクールが中止になり、思うように活動ができなかったこともあったでしょう。また、みづのき祭などの学校行事も、大きく制限された中での開催でした。さらに1、2年生の時は海外研修も実施できず、実体験から学ぶ機会や、仲間との思い出づくりの場も奪われてしまいました。しかしみなさんはこの3年間、そうした状況にしっかり向き合い我慢をし、わきまえた行動を続けてくれました。苦しい現実から何かを学び前向きに努力をし、1歩1歩前に進み乗り越えることで、今日の日を迎えることができました。改めて心からお祝い申し上げます。
卒業は人生にとって大きな節目であり、新しい世界へ羽ばたく出発点であります。この輝かしい門出に当たり、私から3つのことをお話したいと思います。
1つ目は「意思決定のプロセスに参加する」ということです。ロシアがウクライナへ軍事進攻をはじめて1年が過ぎました。多くの人々が命を奪われ、家を追われ、家族がバラバラになり、国土が壊れていく、悪夢のような現実が目の前で繰り広げられています。人間の尊厳はもとより、少なくとも冷戦後30年間、続いてきた世界の秩序と民主主義を破壊する戦争が、今この世界で起きているのです。私たちは、まさに歴史の分岐点を目の当たりにしているのです。では民主主義が脅かされる時、つまり政治や社会がおかしな方向に進もうとしている時、私たちはどうすればいいのか。それこそが「意思決定のプロセスに参加する」ことです。自らの意志を社会に示し、物事を決めるプロセスに参加することです。自分の意見を言葉にし、間違っていることには間違っているとはっきりと伝える。そして正しいと信じることを訴えていく。そうすることで意思決定のプロセスに参加し、民主的な社会を創り上げていく当事者になることです。それは皆さん1人ひとりの義務であり責任なのです。選挙で1票を投じること、つまり選挙権を行使することは勿論ですが、しかしそればかりではありません。平和的なデモに参加する、SNSで意見を発信する、会議で発言するなど、自分の意志を示す方法はいくらでもあります。本日、和国を巣立つみなさんには、是非責任のある大人として民主的な社会の「守り手」になってほしいと切に願っています。
2つ目は、「共感する心を持つ」ということです。これからみなさんは新しい世界に羽ばたいていきます。新しい環境に身を置き、新しい多くの人々と出会うことになります。自分と全く違った考え方、価値観を持った人と出会うことでしょう。また異なった文化や習慣、言葉や宗教を持った人々とも出会うことでしょう。先ほど民主主義について触れましたが、世界には民主主義を知らない人々もいることを忘れてはいけません。違った価値観を持つ人と出会った時、「この人は自分と違う」といって理解しようとすることを諦めたり、排除したりしないでください。理解しようと努力する姿勢、共感する心を養ってください。そしてもしどうしても「共感」できない時は、少なくとも「落としどころ」を見つける知恵を持ってください。自分と違った価値観を認め、理解しようとする「共感力」、そして共に生きていこうとする「共生力」は、本校の教育方針でありグローバルリーダーを目指すみなさんにとって必要な資質です。そしてこのことは、みなさんの人生を豊かにすると共に、これからの日本の社会も豊かにしていくのです。
そして最後は「自分で自分のことを決める」ということです。コロナ禍は「人間は、この地球の主人公ではなく、世界をコントロールできるわけではない。」ということを痛感させられた3年間でした。人生には不条理なことが沢山あり、世の中は常に理性的でも予測可能でもないことを知りました。そして私たちは、不安なると何かに頼ったり、信じられる何かを求めたりするようになります。そしてその結果、多くの人がインターネットやSNSで常に他人の動向や、様々な言説を気にするようになり、時にはフェイクニュースや陰謀論に惑わされてしまうのです。スペインの哲学者オルテガが「大衆」と名付けた「主体性を失い、根無し草のように浮遊する集団」に組み込まれてしまう危険があるのです。だからこそ情報が溢れ、認知戦が激しくなるこれからの時代、自分で自分のことを決める能力が求められます。みなさんには、自分の人生にとって何が大切であるのかを、自分で決められる人になってほしいと思います。空疎な言葉や短絡的な思考に惑わされない重厚な知性と人格を養ってください。科学、歴史、哲学、宗教など様々な分野から多くを学び、知的な胆力、粘り強い知力を養ってください。そして自分の人生の幸せの形を自分で描き、それに向かって力強く歩んでいってほしいと思います。
最後になりましたが、保護者、ご家族の皆様におかれましては、お子様のご卒業、誠におめでとうございます。この3年間で立派に成長されたお子様の晴れ姿を目にされ、喜びもひとしおのことと存じます。皆様には入学以来、本校の教育方針をご理解いただき、終始、温かい御支援と御協力を賜りましたことを心より感謝申し上げます。
結びに本日、このように第34回卒業証書授与式を保護者の皆様と共に挙行できましたことに感謝すると共に、305名の卒業生のみなさんの、今後の限りないご活躍を心から祈念いたしまして式辞といたします。
令和5年3月10日
埼玉県立和光国際高等学校長
鈴 木 啓 修