日誌

2学期始業式校長講話

                           国際協力

  まずは40日間の夏休みに大きな事故もなく、みなさんがこうして元気に登校できたことを嬉しく思います。コロナはなかなか収まりませんが、みなさんはそれぞれ充実した楽しい夏休みを過ごしてくれたのではないかと思います。

 学校としても、この夏は勉強合宿をはじめ海外研修、部活動の合宿など、3年ぶりに実施しました。特に海外研修については、この夏に実施することはまだ不安なことが多いので、断念した高校も多かった中、先ほどの発表を聞いても、本校は実施してよかったなと思っています。コロナの影響で帰国が遅れてしまった人もいましたが、何とか無事に終了しました。参加者それぞれが、貴重な経験ができたと思います。

 コロナ禍での学校行事には、常にリスクはあります。しかし、いつまでも心配だからといって縮こまってはいられません。皆さんの高校生活は3年間しかありません。

  この2学期も多少のリスクがあっても、通常の教育活動を維持していきたいと思います。ただそのためには皆さんの自覚、感染防止の努力が必要です。クラスで2人の陽性者が出たら、学級閉鎖になるというルールは変わっていません。学校生活を維持していくためには、みなさんの責任ある行動が不可欠です。協力をお願いします。

  さて、今日は「国際協力」について話したいと思います。先日、8月28日にチュニジアで開催されていた「TICAD 8・第8回アフリカ開発会議」が閉幕しました。閉幕に際し「チュニス宣言」が採択され、国際ルールを順守したアフリカ開発や「人への投資」の重要性が確認されました。

  そもそもTICADは、日本政府が国連やアフリカ連合、世界銀行と連携して始めたアフリカの開発をテーマとする国際会議です。今から約30年前の1993年に、冷戦後の世界におけるアフリカの重要性をいち早く認識した日本が主導し、初めて東京で開催され、その後3年ごとに開催しています。

  ではなぜ日本政府は、積極的にアフリカを支援するのか?それはアフリカの「可能性」です。現在約14億の人口から2050年には24億人にまで増えると予想され、世界経済の「最後のフロンティア」と呼ばれています。日本にとってアフリカ支援は、将来的な「市場開拓」という意味合いがあります。またその可能性を各国も注目しており、2000年には中国も「中国版TICAD、中国アフリカ協力フォーラム」をスタートさせています。中国は日本と全く違ったやり方で、アフリカにアプローチし、今では大きな影響力を持っています。

  しかし今日みなさんに認識してほしいことは、そういった日本政府の国家的な戦略や中国の思惑と言った話ではありません。皆さんにしっかりと理解してほしいことは、日本の途上国支援に関する理念です。もっとミクロな末端の現場の活動についてです。

  日本が途上国支援の現場でこれまで大切にしてきた基本理念が2つあります。1つは、途上国と同じ目線で協力するということです。日本のODAの実施機関であるJICA、「国際協力機構」は皆さんも知っているとおもいますが、JICAのCは、Cooperation すなわち「協力」です。彼らは、援助(AID)という言葉は、好んで使いません。途上国と同じ目線で「協力」していくという姿勢を貫いています。どんなに貧しい国にもプライドがあります。上から目線で「援助」してやるという姿勢では信頼関係は生まれません。私はJICAへの2年間の出向でそのことは肌で感じました。

  2つ目の理念は、「人づくり」を重視することです。どんなに多額のお金を支援して港や橋や道路を作っても、そこに住む人たちが自立しなければ、その場所の発展は持続可能ではありません。日本政府は、日本人を現地に送り、現地の人と共に汗を流しながら必要な技術を伝え、人を育て、現地の人々の自立を支援することを基本としています。「お腹を空かした人に魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教える」という考えです。

  その姿勢を表す最も象徴的な事業がJICAの「青年海外協力隊」です。「青年海外協力隊」は、途上国のニーズに合った技術・知識・経験を持ち、それを「途上国の人々のために生かしたい」と望む若者を現地に派遣し、現地の人と共に働き、信頼関係を築きながら人材育成をしていく事業です。このような事業を行っている国は他にありません。

  私は2年間、JICAに勤務する中で、多くの協力隊員が活動する現場を見てきました。その中で感じたことは、日本の社会では当たり前にある技術を、途上国に紹介することの大切さです。特に学校の現場ではそれが顕著です。日本の学校で当たり前にやっていることの多くは、実は途上国の学校では、当たり前ではありません。日本で当たり前にやっていることを途上国に紹介するだけで、教育の質が大きく変わるのです。 

  例えば、「日直」という制度。これはみなさんにとっては当たり前のことですが、今、アフリカの学校教育を変えようとしています。アフリカの農村では1クラスに生徒が50人から80人ぐらいいるのが普通です。そして先生は教壇のそばに自分の気に入った生徒を座らせ、身の回りの世話やお手伝いをさせ、言わば「助手」のように使います。後ろの方に座っている生徒たちはほとんど無視、という状態です。しかし日本の日直の制度を導入することで、毎日違う生徒がリーダー的な役割を与えられ、それを責任も持って果たします。日直の日は先生の手伝いをし、クラスから注目されます。クラスの生徒全員が日直をやることで平等に扱われます。生徒の自己肯定感も高まるわけです。クラスの雰囲気、先生と生徒の関係がガラリと変わります。

  日本では、これも当たり前の「運動会」が今、アフリカで広まってきています。アフリカの多くの学校では、生徒や教員が一同に集まり協力して行事に取り組むといった機会がほとんどありません。学校はまとまらず、組織として機能していない場合が多いのです。そこで運動会をやることで、生徒、先生が一緒になって同じゴールに向かって頑張る。学校がまとまるという成果が出るわけです。私は西アフリカのセネガルで、実際に「運動会」の普及活動をしている協力隊員の青年に会いました。「運動会」を行うことで学校が一つになったと喜んでいました。

 また途上国の多くの学校では、音楽や美術のような芸術教育がありません。そういった心を豊かにする情操教育を行う余裕がないのです。そこでカンボジアでは、NGOが日本で使われなくなったリコーダーを現地に寄付し、そのリコーダーを活用して音楽を教えている音楽教師の協力隊の授業を、現地で見学させてもらいました。子供たちの目がキラキラと輝いていたのが忘れられません。

  勿論、このことは学校現場だけではありません。カンボジアの地方都市の病院で出会った看護師の協力隊員は、「厳密な衛生管理が必要な部屋に入る時に、履物を変えるといった日本ではごく当たり前なことを教えることから始まります。」と言っていたのが印象的でした。

  また、ある程度豊かになった中進国のタイでは、高齢化が社会問題になっています。日本で介護士として勤務していた協力隊員が、現地の介護施設で日本の介護の技術を、共に働きながら伝えている姿に感動したことを覚えています。

  途上国支援と聞くと、UNICEFの広報で見るような、紛争や干ばつなどの影響で極度の貧困で栄養失調になっている子供たちを支援するための募金活動などを思い出しますが、実はそれだけではありません。私たちの社会に既にある、当たり前の技術・知識・経験を途上国に伝えるだけで世界は大きく変わるということを覚えておいてください。

  JICAの「海外青年協力隊」は、教育、保健医療、社会福祉、農業などから、土木、建築、工学などの分野まで、実に約190種類以上の職種から自分に合った仕事を選ぶことができます。言い換えれば、ほとんどすべての専門分野の技術や知識が途上国の安定、発展、そこに暮らす人々の幸せに繋がるものなのです。

  今日から始まる2学期。3年生諸君は、これから卒業後の進路について真剣に考え、和国を卒業したあと何を専門的に学ぶのか、決定していくことになります。基本的には自分が好きな事、本当に興味のあることを追求してほしいと思います。

  そしてみなさんが選んだ全ての分野の先には「国際協力への道」が繋がっていることを改めて認識してほしいと思い、今日はこの話をしました。和国の卒業生が世界に羽ばたき、世界のどこかを照らす人になってほしいと切に願っています。